■媒体名:Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle
■掲載日:2022年6月19日
■研究者:Huijuan Jia1), Weida Lyu1), Kazuki Hirota1), Eri Saito1), Moe Miyoshi1), Hirohiko Hohjoh2), Kyohei Furukawa1), Kenji Saito1), Makoto Haritani3), Akashi Taguchi4), Yukio Hasebe5) & Hisanori Kato1)
1) Health Nutrition, Graduate School of Agricultural and Life Sciences, University of Tokyo
2) National Institute of Neuroscience, NCNP
3) Environmental Science for Sustainable Development Graduate School of Agriculture and Life Sciences, University of Tokyo
4) Research Center for Advanced Science and Technology, University of Tokyo
5) ALMADO Inc., Tokyo, Japan
【研究方法と結果】
IL-10ノックアウトマウスモデルに、AIN-93G試料、またはAIN-93G試料(8%卵殻膜含有)を28週間にわたり摂取させ、悪液質の治療法の開発において特に重要である前悪液質の一般的な症状に対し、難消化性タンパク質である卵殻膜がもたらす影響について調べたところ、以下の結果が得られた。
1.体重、腓腹筋と脂肪組織、大腸の重量/全長比、血漿HDLとNEFA、筋肉PECAM-1値(p<0.01)、血糖値、大腸粘膜内ミエロペルオキシダーゼ活性(p<0.05)、ヘルパーT17細胞(Th17細胞)の存在量(p=0.071)は、すべてIL-10ノックアウトマウスと比較して卵殻膜を摂取させたノックアウトマウスにおいて改善がみられた。
2.プロテオーム解析からは、筋肉の弱さと筋肉形成の維持における卵殻膜の保護的な役割も示された(>1.5倍)。
3.トランスクリプトーム解析では、卵殻膜の摂取が肝臓におけるLPS/IL1を媒介したRXR機能経路の阻害を抑制し、上流のBATF経路を抑制することで結腸粘膜におけるケモカインの発現とヘルパーT細胞の分化に関連するマーカー(p<0.01)の発現を抑制していることを示した。
4.腸内微小環境の分析では、卵殻膜の摂取が微生物のα多様性と炎症の程度と関係する微生物叢の存在量を改善し(p<0.05)、総有機酸量、特にTh1細胞やTh17細胞の産生を阻害できる可能性がある酪酸(2.3倍)などの短鎖脂肪酸(SCFA)の量を増加させたことが明らかになった。
【結論】
卵殻膜の摂取により、拒食症、除脂肪組織量、骨格筋の衰弱、身体機能の低下などの、悪液質の主な症状に改善が見られた。また、卵殻膜は骨格筋の炎症、脂質代謝、大腸の微生物叢の変容も改善した。
これらの結果とヘルパーT細胞の分化の抑制は有益な腸内微小環境と、それによる前悪液質の症状軽減と関係している可能性がある。筆者らが得た結果は、前悪液質の予防に向けた補足的介入における卵殻膜の可能性を示唆するものである。